つかず離れず、微妙な関係
(2009年12月)
えっ?不祥事!
前任地の栃木県で高校野球の担当をしていたときのことです。夏の地方大会が終わり、甲子園出場を決めた高校に通い詰めました。しかし、その高校の野球部員1人が傷害容疑で逮捕される不祥事が明らかになりました。3カ月にわたって深く取材し、選手からは野球以外のプライベートな話も聞き出せる関係を築いていただけに複雑な思いに駆られました。
どうにかできないものか
「何とか出場させることができないものか」と選手たちに同情を覚える一方で、事件の被害者のことを考えると「何らかのペナルティーも仕方がない」とも思いました。ただ、自分ではどうすることもできませんし、淡々と記事にしました。「僕たちどうなるんですかね」と不安げな選手の顔は、今でも忘れることができません。
喜びを抑えて
その高校は最終的に出場を認められましたが、抽選会や試合前などの節目には、不祥事についての質問を記者団から受けました。そんな状況で迎えた初戦なのに、同高は、終盤に7点を奪う大逆転勝利を演じてくれました。試合後、チームの1人が「勝ちましたよ」と私にハイタッチを求めてきたときには、ジーンときました。
記事で励まし
同行取材している立場として、うれしくもありましたが、その場は「おめでとう」と一言だけ伝え、取材に急ぎました。「記者として、あまり肩入れし過ぎてはいけない」と考えたからです。選手たちの人知れぬ苦労を知っているからこそ、試合に感動もしました。その思いは記事で表現したつもりです。
相手の懐に
2008年4月に静岡に赴任してからは警察を担当しました。取材手法は、日中の接触だけではありません。独自情報を得ようと、捜査幹部らに直接接触もします。新聞記者の世界で「夜討ち朝駆け」と呼ばれるものです。
報道か信頼関係か
そこでは、懸案の事件の背景などを探ったりします。そんな中、「書かないなら教えるけど」と言われることもあります。「捜査関係者」の話として記事にすることもありますが、取材相手との信頼関係との間で悩むことも少なくありません。「伝えるべき情報か」「読者が知りたい情報か」――。試行錯誤の連続でした。
国会議員に密着
政権交代後は、東京に長期出張して暮らしの変化などを追いかけています。11月には県選出の民主党の新人議員を1週間近く追いかけて記事にしました。選挙中は候補者として何かと記事になるのですが、当選すると一部の有力議員を除いて動向が伝わってきません。「国会議員は日頃何をしているのか」。そんな疑問が取材のきっかけでした。
意外な生活
時間が許す限り人に会い、夜遅くまで資料を読み込む。国会開会中に地元に戻る日もある。国道整備のお願いから請願の推薦依頼、時限立法の延長の要望。東京の事務所にいると、次から次へと人がやってきます。国会議員の仕事は、私が想像していた以上に忙しい仕事でした。
議員が身近に
政府に入れなかった議員が政策立案に関与できる機会は限られています。それでも、その議員は地元の切実な訴えを聞き、何とかしたいと委員会での質問の準備をしていました。理由を聞くと、「光の当たらない人の声をすくい上げていきたい」との答えが返ってきました。自分が目指す記者のあり方に通じるものがありました。初めて国会議員を身近に感じた瞬間でした。
大事なバランス感覚
もちろん、政治家に対しては、「権力のチェック」という視点も忘れてはいけません。ただ、取材相手に食い込めば食い込むほど、いい話が聞けるのは確かです。適度な距離感を保ちつつ、いい記事を書く。簡単ではありませんが、そんな記者でありたいと思っています。
(朝日新聞静岡総局記者 小川弘平)





