「モバゲーでいいのか?」
(2011年12月)
深夜の電話
ある夜、電話がかかってきた。時候のあいさつ後に切り出されたのは「モバゲーでいいのかな?」という問いだった。彼の長男は小学3年生になり、少年野球チームに入った。週末は父親もグラウンドに足を運ぶ。泥まみれの少年たちがキラキラ輝く様子に、ついほほがゆるむという。そして「ホントにモバゲーでいいのかと思うのよ」と繰り返した。
携帯ゲーム
彼はプロ野球チームの経営者でもある。彼が疑問を抱く、モバゲーとは横浜ベイスターズを買収したDeNA社が運営するモバイルゲームであることは、一連の報道で多くの人が知るようになった。多くの子どもたちが楽しむモバゲーだが、課金制の側面もあり、大金を費やすことになる場合もある。彼はそれが不健全なのだという。
健全不健全
「子どもたちのためにもプロ野球は健全であるべきなんだよ」。モバゲーで遊ぶ子供が不健全で、野球少年が健全なのかは意見が分かれるだろうが、実際に野球少年と触れ合うあなたが感じるなら、そう主張するのが自然だと思う。そう伝えると、彼は付け加えた。「健全か健全じゃないか、議論を尽くすのが健全じゃないのか」と。
ナベツネが
DeNAの買収については、早くから巨人の渡辺恒雄会長が容認する発言を繰り返したことで球界内部の既定路線になった感がある。彼はそれも気に入らない。渡辺会長が球界全体を牛耳る風潮から抜け出すためにも、今回の問題は徹底して反対の立場をとり続けた。子どもたちの野球を汚さないためにも。そして、議論を尽くすためにも。
意外な真相
今回、楽天イーグルスが唯一反対を貫いたのは、同じIT企業の急成長を阻止するためだと、周囲には狭い了見で見られている。しかし、真相は野球少年の父親が率直に抱いた疑問だったことを知る人は、あまりいない。父は白球を追う息子のために奮戦したのだが、及ばなかったという、意外なホームドラマもはらんでいたのだ。
指導者語る
けれど、父親が自分が野球をする姿を熱く見守ってくれていることは、彼の息子も頼もしく感じ取っているはずだ。今年、中学硬式野球のリトルシニア日本選手権で優勝した静岡裾野シニアに、高校から少年野球まで長く野球指導に携わった人がいる。たくさんの野球少年とその父親を見てきた指導者は、ある流れを唱えていた。
父子の原理
「男の子は父親に見られることで成長するんですよ」。父親の仕事や家庭の都合で、必ずしもすべての父親が頻繁にグラウンドに足を運ぶことはできないのだが、不思議なほど父親の視線には選手を発奮させるエネルギーがあるのは、どんなに時代が流れようが変わらないと力説していた。
ホントに…
それにしても、DeNA社は子どもたちがあこがれ、父親も安心して見守れるチームをつくってくれるのだろうか。スポーツ紙に掲載されたオーナーのロングインタビューを読む限り、ビジネス的に成功するかどうかが論点になるばかりで、夢が見えてこない。ホントにモバゲーでよかったのだろうか…。
(日刊スポーツ静岡支局長 久我悟)





