真実とドラマ
(2012年1月)
TBS系ドラマ「南極大陸」が話題になりましたね。放送開始後すぐに私の所へもラジオや雑誌インタビュー、講演の依頼が次々に舞い込みました。
一面に凍る南極海を割って進む観測船しらせ
南極と観測隊が注目される絶好の機会、とてもありがたいことです。でも、観測隊仲間の間では、評価や意見がいろいろ割れました。
支持する声は「南極の魅力を多くの人に伝えられる」。
不満の声の多くは「事実と違うので誤解を招く」です。
「ドラマなんだからいいじゃない」という人に、「知らない人は事実と信じてしまう」という反論も。私も「宗谷で火事があったの?」とか、「タロ、ジロは捨てられていたんですね」などいろいろ言われました。その度に「それはフィクション!」と、誤解の「火消し」に必死でした。
ドラマに出ているのは樺太犬ではありませんが、それは仕方ないですね。純血種は日本にいなくなってしまったからです。かつて北海道に約千頭いたそうですが、荷役犬としての役割がなくなるにつれ、野犬になる犬も増え、エキノコックス病の宿主になる恐れから駆除されてしまった
そうです。
昭和基地に15頭を置いて帰った2次隊が責められていた頃、そんなことがあったとは皮肉なものですね。タロとジロには、南極には行っていませんが、サブロという兄弟犬もいたんですよ。
ドラマでは、隊員の父が白瀬矗の探検隊にいてボツンヌーテン行きを夢見たと、これもウソ。1次隊はボツンヌーテンへ遠征しましたが、白瀬が南極へ渡ったのは、昭和基地とは逆側、何千キロも離れ、南極大陸を横断しないとたどり着けません。その存在を知る由もありません。
本物の舞台が使われたのは東京の「船の科学館」にある初代観測船「宗谷」。放送開始から見学者が急増しています。
でもこの「宗谷」、維持費が足りず、老朽化も激しく、実は保存が難しい状況なのです。南極観測の歴史を後世に伝えるため、「本物」を残したいものですね。
(朝日新聞報道局記者 中山由美)






