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被災地を取材して

(2012年1月)


東日本大震災

昨年3月11日の東日本大震災。地震が発生した時には、研修で東京本社に派遣されていました。

震災直後、私が任された仕事は、亡くなられた方々のお名前を紙面に掲載することです。被災地の県警が発表してきた資料をもとに、亡くなった方のお名前、年齢、住所を記事にします。身元の確認にも時間がかかり、被災直後は、カタカナでお名前が掲載されている人ばかりです。

掲載されている年齢を見ると、生まれたばかりの乳幼児から高齢の方まで。この地震がどれだけ多くの人の命を奪ったかに直面する仕事でした。

名簿の中には、同じ名字で年齢が親子ほどの人もおり、その名簿からでも家族で亡くなられたのかと推認できる方もいらっしゃいました。見つめているのは、文字ですが、その先にある数々の失われた命に、私ができることは何だろうと常に考えていました。

許されないミス

最も気をつけたことは、ミスのないことです。当たり前だろうと感じられるかもしれません。紙面を見て、連絡がつかない家族や知人を探す方がいらっしゃいます。現地に向かった記者からは、「避難所でみなさんが真っ先に見るページが『亡くなられた方』だ」という話も聞きました。

だからこそ、この仕事に関わった全員がミスのないように、と慎重に作業しました。私にとっても、毎日の締め切りがある中で1日に千人ものお名前や年齢、住所を扱うのは初めてのことでした。

作業は、名簿をもとに複数の記者が、慎重にパソコンへ打ち込んでいきます。打ち込んだ後は、1文字1文字丁寧に読み上げて確認をしていきました。締め切り時間まで何度も何度も確認を繰り返し、新たな発表があれば打ち込む。その繰り返しです。

この「亡くなられた方」は、現在も紙面で掲載を続けています。

岩手県へ

震災から9日後、岩手県へ入りました。

紙面やテレビの映像で何度も何度もその惨状を目にしていましたが、実際にその場に足を踏み入れると、言葉が出ません。比較をするわけではないのですが、これまで取材に行った事件や事故の現場が色あせるほど、衝撃がありました。

半鐘を鳴らしながら亡くなられた消防団員の仲間たち、母親を亡くして高校の合格発表にのぞんだ中学生、消防団の活動をしながら、妻子の遺体を見つけ出した消防団員さん。私が同じ立場だったら、新聞記者に自分のつらい体験を話せるか、と自問ばかりでした。それでも、私が出会ったみなさんは、涙を流しながらその思いを聞かせてくださいました。

泣くもんか

私が記者になってから、気をつけていることがあります。取材中に泣かないことです。話を聞かせてくれる人の方が何百倍、何千倍もつらい思いをしているのに、その体験もしていない自分が泣いてはいけないという考えからです。

人によって、考えは異なりますので、もらい泣きをすることで共感できることも、もちろんあると思います。私自身、気をつけていても、過去の取材で泣いたことがあります。

今回の震災の取材でも、それを心がけているつもりでした。ですが、自分が取材したことないことばかりか、これまでに見聞きしたことない初めての事態に直面し、何度も涙をこぼしてしまいました。

避難所には、連絡がとれない方へのメッセージが壁一面に張ってあります。「○○にいる」「○○は無事だった」「○○、生きていてくれ」。どのメッセージを見ても、書いた人の気持ちが伝わってきました。目の前で流された妻を捜して、10日間歩き回る男性は、1日の食事をおにぎり1個で過ごしていました。

記事にすること

今回の取材で、新聞記者の仕事が少しわかったような気がしました。

妊娠9カ月の妻を失いながら、ボランティアで避難者の髪を切る美容師の男性を取材した時のことです。男性は、妻子を失いながらも、被災した美容室からハサミを持ち出し、避難所へ足を運びました。つらい気持ちを出すことなく、笑顔で「お客さん」の髪を切る姿を記事に添えました。

その記事が掲載されると、読者の方々から様々な手紙が私や男性へ届きました。同じ美容師をしているという女性や、亡くなった妻と同じ年齢の娘を持つ男性。手紙には、励ましや応援の言葉が綴られていました。

掲載された新聞を男性のもとへ届けると、男性のお父さんが待ってくれていました。玄関に入ると、妻の母子手帳やお守り、財布がきれいに並んでいます。お父さんは記事に目を通し、涙ながらに「ありがとう」という言葉をかけてくれました。

その後に電話をくれた男性からは、新聞を墓前に置いたという話を聞きました。男性は「記事にしてもらって、気持ちが少し前に進めた」とおっしゃっていました。

私たちの仕事は、読者のみなさんに記事を読んでいただくと同時に、取材をした相手の方の力になることもあるということを体験しました。

亡くなられた方のお名前を正確に載せることも、様々な体験をした方にお話を聞き、記事に載せることも、大事な新聞記者の仕事です。この未曽有の災害の中で、何が起きているのか、今後も取材をしていきたいです。
(朝日新聞静岡総局記者 阿部朋美)

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