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最後の打者、背番号10

(2010年7月)


25年前の開幕

高校野球の季節がやってきた。静岡大会は10日に開幕する。私も25年前、開幕の日を迎えた。故郷岡山の金光(こんこう)学園という普通科高校の野球部で主将を務めていた。部員19人の小さな部だったが、開幕前の練習試合で5連勝。調子に乗っていた。1つ勝てばシード校の倉敷商と対戦する。ひと泡吹かせたかった。

補欠の主将

邑久高との1回戦前夜、自宅に電話がかかってきた。朝日新聞の記者からだった。チームの調子を聞かれ「負ける気がしない」と答えた。すると記者は本題に入った。「あなたは背番号10番のキャプテンなんですね」。そう、私は捕手としては致命的に肩が弱く、外野に回ってもあまりにも足が遅く、声の大きさだけで主将を務めていた。

強気な談話

取材する側となって実感するのは、わずか19人の野球部なのに補欠の主将とは、原稿のテーマが絞りやすい対象だったのだろう。私は記者の質問に素直に答えた。なぜ、補欠になって、悔しいのかやりがいがあるのか。今だったら、冗談の5発も交えて、自虐的に笑わせるのだが、かなりまじめに答えたと思う。「負ける気がしない」と念押しもして。

あっけなく

試合はあっけなかった。1年生の時から県大会のマウンドを経験するエースが、1回先頭打者から6人連続でヒットを浴びるなど6失点。途中、伝令に走ったが、監督から注意された。「お前の様子が一番舞い上がってたぞ」。反撃もしたが、失点も食い止められず、7回を迎えて2対10。コールド負け目前の7回1死一塁から、私が代打に指名された。

力なく三振

一発打てばコールドは避けられる。それに気付いたのは、数年後だった。何しろ、高校通算0発ではそんなこと想像できるはずがない。しかも、大量点差にかかわらず、進塁をあせった一塁走者がけん制で刺された。私もフルカウントから外角のカーブを力なく振らされ試合が終わった。ここまで書くと、悔しさがぶり返す。もう1度あの夏に戻りたいぜ!

試合後の取材

試合後、記者に声をかけられた。「昨日はどうも」。電話取材してくれた朝日新聞だった。「すいません。『負ける気がしない』なんて、言い切ったのに」。「いえいえ、ところで最後の打席だけど…」。今だから思うのは、補欠の主将がコールドゲームの最後の打者だなんて、なんと記事になりやすい取材対象だろうか。

人生の転機

翌朝、朝日新聞に15行ほどの雑観記事が掲載された「最後の打者、背番号10」。正直、うれしかった。そして、野球選手は無理でも、野球記者にならなれるかな。そう思うきっかけになった記事だった。そう書くとできすぎた話だが、こればかりは現実。グラウンドにはいくつものドラマがあるのだから。
(日刊スポーツ静岡支局長 久我悟)


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